秀808の平凡日誌

第参話 滅


「…照準良し!角度良し!『滅龍砲』撃てっ!」

 『滅龍砲』に装填されていた砲弾が煙の尾を巻き上げながら飛んでいく。

 放たれた砲弾を、スウォームは避けようともせず、そのまま直撃し、爆炎を上げた。

 食らったスウォームは煙を纏いながら地に頭から落ち、兵士達の間から歓声があがった。

「やったぞ!」

「ざまぁみろ!モンスターめ!」

 …なぜ、ここまでこの兵器の威力に自信が有るのか。

 この『滅龍砲』の砲弾には、古くから龍たちが恐れ遠のくと言われている『龍殺しの印』が刷り込まれており、さらにその砲弾の内部には、火薬と共に『龍殺しの実』と呼ばれる木の実が擦り込まれている。

 かつて、山と見間違うばかりの大きさのドラゴンが近くを通り過ぎるという事件があったとき、この『滅龍砲』で、それを退散させた、というのである。

 …ということから、彼等は絶対な自信を持っていた。

「うかれるな皆の者!衛兵、あれの生死を確認しろ!」

 全兵士が見守る中、一人の『コンポジットアーマー』を着た剣士が倒れてピクリとも動かないスウォームの生死を確かめようと近寄る。

 その顔に、このモンスターが無事であるはずなどないという自信がはっきりと表れていた。

 その様子を見守る兵士、隊長でさえも、皆。

 …そう、この時までは。

 衛兵が寄ってくるのをまるで待っていたかのように、スウォームが起き上がった。

「な…!」

 衛兵が、予想外の出来事に体が硬直してしまう。

 恐怖心で体が動かない。全身の筋肉が硬直している。

 そして、衛兵は四つんばいの状態から立ち上がったスウォームと目が合った。

 まるで漆黒のように黒い短髪、肌色の顔の肌に2つある瞳は瞳孔に中心上に円が走っている。

 そして、口から僅かに感じる熱。鋸のように鋭く揃った牙。

 鱗…なのかわからないが、さきほどの砲弾が当たった部分が黒くこげてはがれている部分があることから、鱗と考えていいだろう。

 それ以外は、全て髪と同じ黒い鱗に覆われている。

 さらに、手の指に生えた鋭い爪。

 そして、なによりも印象的なのが、その翼。

 槍でつけばすぐに破れてしまいそうな薄い翼膜に見えるが、『バリスタ』も通用しなかったとこを見ると、相当な強靭さを誇っているのだろう。

 スウォームが、少しずつこちらに歩いてくる。

 このままでは殺される、そう判断したのか、衛兵は腰に挿していた曲刀『タルワール』を抜き、『ファビス』を構えた。

「く…来るなっ!化け物ぉぉぉぉぉ!!!!」

 衛兵は『スウィングインフィニティー』で切り裂こうと、『タルワール』を素早く振り下ろした。

 だがその刃は、スウォームの左手によって刃をつかまれ、一撃目で止められてしまう。

「な、何だと…?」

 そして今度はスウォームが、右手を揃え、突き刺そうと構える。

 衛兵も突き刺されまいと、『ファビス』をがら空きの体を隠すようにして構えた。

 だが、無意味だった。

 突き出した右手は、『ファビス』を紙のように貫き、『コンポジットアーマー』すらをも貫通し、その衛兵の体を的確に貫いた。

 スウォームが手を退くと、貫かれた鎧の隙間から血があふれだし、今度は、衛兵が地に倒れこむ。

 …その様子を、兵士達と共にファントムは静かに、見ていた…
 

 


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